総合型スポーツ施設の中に見る共生社会づくりの設計思想
 様々なスポーツを育てる総合型地域スポーツクラブづくりの拠点となる多目的体育館の建設が各地で進んでいます。
 最新の施設はどのような設計思想の中で建設、運営がなされているのでしょうか・・ 
 過日、お訪ねした施設のひとつを紹介します。 訪ねた施設は大阪府門真市にあります「なみはやドーム」です。
  

1996年にオープンしたこの施設は 「なみはや国体」 の会場として使用され、多くの選手がここに集い、大観衆に見守られて競技が行われましたが、お訪ねしたのはその少し前の時期でした。
このとき拝見したこの施設に見た設計思想のいくつかに注目しました。 こうした施設が全国的に数多く必要なことを思うとき、新しい施設建設に取り組まれる方々に、設計参考に見学をお薦めしたい体育館のひとつです。

ここに紹介の内容は当該施設にあるカタログ上のものは割愛し、視点をバリアフリーの設計思想にポイントを置き 施設の中に入ると、まず、障がいの有無にも関係なく、誰でも利用し易い設計工夫が目につきます。 館内の総合案内の表示が、視力障がいの人達にも分かるように触地図が設置されていました。
楕円形の建物内部の各室は緩やかなカーブを描く通路で結ばれていますが、1階のメインアリーナの競技を観覧することのできる2,3階部分などに、万一の火災発生などに備えての万全の設備が設けられていました。

総合受付の場所からサブアリーナに向かう通路は緩やかで長い階段が続いていましたが、その途中に数ヶ所の幅のある平坦部が設計されており、高齢者や下肢に障がいのある人達には優しい配慮になっています。 この階段は視力障がいの人達に対し、点字ブロックで段差のある場所とない場所が判別できる工夫もありました。

メインアリーナは夏はプールとして、冬はフロアとして切替え使用のできる施設としていますが、年間を通じて使用できるサブプールと共に、その観覧席に聴力障がいの難聴者が使用している補聴器に配慮し、周囲の雑音を減少させ、館内放送が明瞭に聞き取れる「フラットループシステム」と称する装置が観客席の一部に設計されています。
また、この施設は国内外の選手を迎えて大きな競技大会が行なわれるため観戦者も多く、車椅子で観戦にきた人達に配慮し、各出入口に近い位置に車椅子席が用意されていました。これは防災の面からも適切な設計です。

トレーニングルームを拝見すると、車椅子の人達にも使用できる最新型のマシンも設置されている他、この室内設備を利用する人達の会員登録証にはすべて写真が貼られ、その写真が常時確認出来る状態にセットされておりました。
これは指導員など各職員が早くに利用者の名前と顔を憶え、名前で親しく話し掛けることに役立ち、相互の信頼感を増やす上からも効果のある配置と思います。

館内を拝見した後、ロビーで休憩している利用者のグループにこの施設の感想を尋ねたところ、下肢に障がいのある人達からは 「障がいのある者にとって大変嬉しい施設です!」 と答えてくれました。 また、車椅子を使用していた人からは 「障がい者優先という施設も利用しているが、ここの施設は障がいのない人達との交流が数多く出来る点が魅力です」 と話してくれました。
この施設建設には、初代の館長自ら設計に加わったとのことで、障がいのある人達や高齢の人達などに十分な配慮の行き届いた設計が為されたことを伺い、利用者の感想もその設計思想がもたらしたものでした。

いろいろな施設を見るとき、設計者の中には従来までの知識、情報を取り込むだけで、建設の手間や建築費に考えを置いた建築物を完成し、利用者の不満があっても建て直しなど簡単にはできず、聞き流すだけに留まっている状況を見聞きするのは寂しい限りです。
使用する人達の様々な目線や使い勝手を十分に配慮し、将来の利用予測を様々な現場からの情報を基に何種類もの角度からシュミレーションを繰り返し、利用者が本当に使い易い施設設計を考え、増やしてほしいものです。

お訪ねした施設の設計には人の温かみを感じました。さわやかな職員の笑顔の中に運営姿勢が推察できました。 総合型スポーツクラブを育てる地域施設の設計ポイントは、共生の社会づくりを実現できる環境の具体化です。 共生社会の環境づくりのひとつにこうした体育施設がありますが、その設計思想が施設の存在意義を高くも低くもします。

これからの時代は、年代の違いや障がいの有無、また、国内に多数の外国人が生活する時代でもあり、国籍の違いも問わずにすべての人達が共に楽しめるスポーツ環境づくりが新しい設計思想に必要な要素のひとつです。 その環境が、バリアの存在を感じないで楽しめる雰囲気を生み出せるか否かで、その施設の価値が決定することに心をおく必要があります。
優れた施設とは必ずしも最新の設備があるものに限りません。その施設が利用者を迎える環境の中に、爽やかにして温かみのある雰囲気の感じられることが大切と感じました。
      
バリアフリースポーツ環境を求めて

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